2011年11月25日金曜日

3・11 文明を問う (6の6)=最終回=

ーーーーーー共同通信社編集委員室国際インタビュー企画18回連載記事紹介ーーーーーー

    第16回目は、ミャンマーの仏僧3人が登場する。この国を2008年5月2日、巨大な台風(サイクロン)が襲った。死者と遺体未発見者は14万人に達した。

    ウ・ブサニャ・サラ師(64)は、「50年前と比べ、人間と自然の質は低下した。物欲が深まり利己的になり、思いやりを忘れた。それが気候変動や、新たな疫病の流行を生んでいる。災害は人間が生み出す。考え方を変えなければならない時が来ている。このことを巨大な自然の力が気づかせてくれた」と警告する。

    「先進国は科学を過信し、おごってしまった。原発事故も、その結果だ」。「私たちは老いと死から逃れることはできず、科学もこれを止めることはできない。科学は万能でない」

    「人は、定められた以外の時に死ぬのは難しい。亡くした人、失ったもののことばかり考えて暮らすのでは意味がない。いつか来る死の時まで、課されたことを精一杯やり、歩んでいかねばならない」

    「苦しみは、過去と未来にばかり思いを置くことから生まれる。瞑想で現在の自分に集中し、苦しみを軽減できるようにする。苦痛も永遠ではない。自分を救うのは自分以外にない」

    (アジア人、特に日本人は我慢強さで知られているが)「我慢は、指導者が優れている場合は意味があるが、そうでない場合は良い結果をもたらさない」。「政府が<民主主義>と主張しているものが真の民主主義でなければ、変えるために行動することは必要だ」

    アシン・バラ・サミ師(45)も、「物質主義を発展させるのであれば、心と精神も鍛えなければならない。そうでなければ破滅に向かう」と、警鐘を鳴らす。

    ウ・パニャ・シリ師(36)は、08年の被災時、「僧侶というよりも人として共に歩みたかった。木の枝に引っかかっていた5歳の姪の遺体を見たが、個人的な悲しみに浸っている暇はなかった。おびただしい遺体に埋葬地が足りず、遺体の腕と腕を結び、川から海へと流した」と述懐する。

    「宗教は行動が伴ってこそ意味を持つ。私は僧侶という仕事で奉仕することで、自分自身を救い、心の平安を得ている」


    最後の発言者は、米国の上院議員、副大統領、駐日大使などを歴任したウォルター・モンデール氏(83)。1979年にスリーマイル島原発事故が起きた時、副大統領だった。「今となっては恥ずかしい。安全な原発だと思っていたが、違っていた。福島原発も安全だと思っていた。誰も想像していなかったが、原発の冷却装置が津波に対して脆弱だった」

    「米国は使用済み核燃料の問題で研究を重ねたが、いまだに処分方法が決まらない。問題解決は遠い」

    「日本以上に核兵器の危険性を知る国はない。今や原発事故も経験した。日本は、代替エネルギー開発分野で世界の先頭に立ってほしい」

    「米海兵隊の普天間航空基地のような問題の解決には、注意深く時間をかけて調和をつくりださねばならない。この問題は日米間の中心的な問題ではないし、あした解決しなければならないわけでもない」


    最終回(第18回)は、このインタビュー企画を統括した杉田弘毅編集委員がまとめている。「東日本大震災と東電福島原発事故は、世界の幅広い分野の識者にさまざまな思考を促した。インタビューからは、この大災害が現代文明に与えた衝撃が読み取れる」ーー。

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    共同通信社編集委員室のこの連載企画は、日本各地の読者の間で反響が大きかった。また学者、科学者ら専門家からの反応も強かったと聞く。要点だけでもと思い、転載させてもらった。

(2011年11月25日 伊高浩昭まとめ)