2011年11月21日月曜日

3・11 文明を問う (6の4)

ーーーーーー共同通信社編集委員室国際インタビュー企画18回連載記事紹介ーーーーーー

     10人目の登場人物は、米国人の「環境思想家」レスター・ブラウン氏(77)。「(福島原発事故であらためて現実問題になった)原子力のリスクは、現代文明が直面する多くのリスクのうちの一つでしかない。高騰続く穀物価格、増え続ける飢餓人口、国として体を成さない破綻国家増加という3つの傾向に注目している。地球の再生能力をはるかに上回る速度で天然資源を浪費することの上に成り立ってきた現代文明が、崩壊に向かい始めたことを示している」と、衝撃的な指摘をする。

     「持続可能でない水資源の利用、魚の乱獲、森林破壊など、地上のすべての資源で減少が目立つ。地球が吸収できない量の二酸化炭素を放出していることからも、今の経済は、いつか破裂するバブル経済、ねずみ講経済と言える」

     「人類はボートで川下りしながら、滝つぼに向かっているようなものだ。このままでは滝つぼに落ちる。一刻も早く、天然資源を浪費する文明から方向転換し、全速力で逆方向に漕ぎださねばならない。もしかしたら滝つぼはすぐそこにあり、手遅れかもしれないが」

     「21世紀の安全は軍事手段では確保できない。気候変動、穀物価格や食糧、水資源、人口増加などが安全を左右するからだ。この安全を脅かすものが何かを考えれば、新たな経済、新たな文明の在り方も見えてくるはずだ」

     「発展途上国の貧困を解消し、人口増加に歯止めをかけねばならない。原子力と化石燃料を早急に再生可能エネルギーと省エネで置き換えること。過剰な取水を規制すること」

     「引き返し可能な地点は、自然によって決められている。自分たちの文明が崩壊に向かっている事実に向き合うのは難しい。引き返しがまだ間に合うと確信する理由はないが、努力を放棄する理由もない」

     
     11人目は、韓国の詩人、鄭浩承(チョン・ホスン)さん(61)。東日本大地震の直後に、「日本よ、泣かないで」という詩を発表した。「被害者の涙が私の涙、私の隣人の涙のように感じられ、書こうと思った」

     「2004年のスマトラ沖地震の時は客観的な視点を持ったが、日本に対してはそうならなかった。なぜ自分が切迫感を感じたのか、深く考えてみたい」

     (大震災後の「日本は一つ」という雰囲気に新たなナショナリズムを感じないかとの質問には)「そうは考えない。軍国化に進むなら、それは退歩だ。日本は退歩するほど愚かではない」

     「韓国では、戦争、貧困、革命などを経て、他者への分かち合いよりは、自分を守る生存の方が大きかった。日本については戦後、戦争、分断、貧困がなく、富と安全と秩序を備えた暮らしをしていると考えられていた。しかし大震災を見て、人間の暮らしは同じで、絶望感も同じだという同質性、苦痛の同質性を感じた。だから韓国人は誰が言い出すというのではなく、自発的に日本を助けようという声を上げたのだ」


     12人目はインドの前大統領アブドル・カラム氏(79)。核兵器、ミサイル、宇宙開発に長年携わった科学者だ。「日本も含め世界の地震多発地域にある原発は直ちに耐震と津波対策を強化しなければならない。インドは04年のスマトラ沖地震で津波が押し寄せてきた経験を踏まえて、地震と津波に耐えられる原発を設計するようになった」

     「大事なことは、科学技術に不可能はないということを信じて努力すること。難問はいつでも生じるが、難問に主導権を握られるのではなく、科学者が主導権を握り、立ち向かわなければならない」

(2011年11月21日 伊高浩昭まとめ)