2012年6月1日金曜日

映画「黒いパン(ブラック・ブレッド)」を観る

☆★☆スペイン内戦(1936~39年)は依然、現代である。スペインの作家、歴史家、映画人、ジャーナリストら知識人は、いまも内戦が投げかけた問題に取り組んでいる。現政権党PP(右翼の国民党)と前政権党で野党のPSOE(ペソエ=左翼のスペイン労働社会党)は、憎しみ合い内戦を戦った両派の流れを汲んでいる。

★バルセローナを都とするカタルーニャ州では内戦中、社会主義者、共産主義者、無政府主義者、無政府-労働組合主義者ら左翼陣営が、共和国を守る人民戦線の一翼を担いつつも、親・反スターリンの両派に分かれて激しく抗争した。<内戦の中の内戦>と呼ばれたゆえんだ。

☆内戦で勝利したフランコ総統の率いるファシスト勢力が支配していた時代のカタルーニャの田舎町が、この映画の舞台だ。内戦中に左翼だった2人の男が、権力者によって操られ、魂を失い、殺人者にまでなってしまうという物語だ。人間の弱さ、悲しさを最大限に綴っている。サスペンス豊かな展開で、時に不気味でさえある。このような出来事は、史実として内戦後、あちこちにあったのだろう。冒頭、生きた馬を崖から落とす、過剰とも言えるレアリズモがある。

★この映画はカタラン(カタルーニャ語)で押し通している。私はフランコ時代の末期にカタルーニャを取材したが、カタラン使用は禁じられていた。また20年前のバルセローナ五輪当時は、カタランはエスパニョール(スペイン語)ないしカステジャーノ(カスティージャ語=スペイン語)と闘い、使用可能圏を拡げようとしていた。今やカタランの映画が堂々、スペインを代表してアカデミー賞外国語部門に参加するまでになった。この映画がしかりだ。まさに隔世の感がある。

☆5月25日、試写会で観た。原題は「パ・ネグラ」、エミリ・タシドール原作。アグスティー・ビジャロンガ監督・脚本。113分。

★6月23日、銀座テアトルシネマなどで公開される。考えさせられる映画だ。


【参考資料】伊高浩昭著『ボスニアからスペインへ ー 戦(いくさ)の傷跡をたどる』(2004年、論創社)、伊高浩昭著『イベリアの道』(1995年、マルジュ社)。