2013年1月10日木曜日

『ラテンアメリカ10大小説』を読む


★☆★この本(木村栄一著、2011年、岩波新書)は、小説家志望者には必読書だろう。たとえば、メタフォラとデフォルメの最たる「魔術的リアリズム」の手法が分かりやすく解説されている。机上に長らく「積ん読(つんどく)」していた本の中から目をつぶって選んだのが、この本だった。面白かった。

★著者は「ラ米で西語がみずみずしい生命力にあふれていた時代に生まれ合わせたラ米人作家たちが、失われていた物語を小説の中に甦えらせた」と指摘する。その時代はメキシコ革命(1910~17)、スペイン内戦(36~39)ボリビア革命(52)、キューバ革命(56~59)、ニカラグア革命(78~79)が連なった時代だった。

★大西洋の彼岸の旧宗主国スペインの血みどろの内戦は、ラ米知識人に強く深く影響を及ぼした。此岸のラ米革命は、よどんでいたラ米の風土を撹乱した。先住民族が状況の表面に躍り出してきた。

★もう一つの重要な要素は、北方の巨人・米国が帝国主義の力でラ米を絶えず呑みこもうとしていたことだ。革命をはじめとするラ米の動きは、米国の南下圧力に抵抗する力学から生まれている。米国をたじたじとさせたキューバ革命がラ米知識人に与えた衝撃は計り知れない。創作の強烈な刺激となった。

★幾つか気づいた点のなかの一つだけ挙げるが、1973年のチリ軍事クーデターを第8章では「革命」と書き、第10章では「クーデター」と書いていること。これはもちろんクーデターが正しい。さらなる重版の際に正しい方に統一すべきだろう。