2014年6月21日土曜日

◎ピースボート「オーシャン・ドゥリーム号」世界周遊航海紀「波路はるかに」第9回=最終回=

 船は615日、ミッドゥウェイ島のはるか南方を西方に航行し、夜半16日を迎えた。だが1時間後、日付変更線を通過し、17日に入った。16日は、はかなく消えた。日本との時差は+3時間となった。3時間を引けばJSTになるから、便利だ。
 15日の気になっていたコロンビア大統領選挙決戦は、525日の第1回投票で2位に甘んじたJMサントス大統領が逆転当選した。一騎討ちの相手は右翼候補だった。サントスが勝って、ゲリラとの和平交渉はサントス流に継続されることになった。コロンビアとラ米のためには、いい結果だった。
 岩波ホールの特別許可を得て、「みつばちの大地」を上映した。蜜蜂が世界的に減少している。植物の雄蕊と雌蕊を結ぶこの昆虫がいなくなれば、植物の35%は立ち行かなくなる。野菜や果物の多くが実らなくなる。映画は、船内の観衆に衝撃を及ぼした。
 高瀬毅の定番「ビブリオバトル」に審査員として参加した。面白かった。本を読まない若い世代に幾ばくかの刺激を与えることになるに違いない。武田緑、笠井亮吾の二人の若者代表と、高瀬、伊高が「世代格差」について討論する特別企画もやった。若い船客からの反応がはっきりと現れ、やってよかったと思う。
 被爆者・被曝者8人との「記者会見」もした。被爆・被曝体験をいかに語り継ぐか、という喫緊の主題が常に問題となっている。横浜帰着直後、本物の記者会見が待っている。
 船は、横浜下船の準備態勢に入った。便利で快適な動くホテルから数日後、出なければならない。船上講師としての仕事は、今夜の「軽音楽の夕べ」をもって全て終わる。合計60数回の出演となった。
 本は、書評用に、参考書として、また楽しむため十数冊読んだ。最後に呼んだのは、石垣綾子著『スペインで戦った日本人』(朝日文庫)。20年ぶりに再読した。ジャック白井の生き方と死に様を綴った名著だ。面白かったし、懐かしかった。

 4月半ば東京を発ってから70余日で帰着する。船からの通信事情の不自由さから、「波路はるかに」は9回しか送れなかった。書くべきラ米情勢もほとんど書けなかった。前方には、溜まっている雑務の処理という憂鬱な仕事が待っている。長い祭の後には責め苦が来る。時差は2時間減って、既に1時間だ。これがなくなるとき、船は横浜に入る。=2014・06・21 船上にて伊高浩昭=