2016年2月17日水曜日

映画3本「オマールの壁」「人生は小説より奇なり」「無音の叫び声」を観る

 昨日、試写場を3カ所はしごして、映画3本を観た。家を出てから帰宅するまで9時間、映画を観ていたのは計5時間15分だった。駅から会場、会場から会場、会場から駅へと歩いたのは計90分くらいか。くたびれた。

 一つ目は、東銀座と築地の間にある松竹本社で、パレスティーナ人のハニ・アブアサド監督の2013年の作品「オマールの壁」(原題「オマール」、97分)。異常な日常の中の異常な出来事を描く、政治的人間ドラマの秀作だ。

 ヨルダン川西岸のパレスティーナ領と、その領土を軍事力を持って侵食するイスラエルが築いた高さ8mのコンクリートの壁越しに物語は展開する。

 日本人観衆にとっては、パレスティーナの置かれている状況の理解の一助となることだろう。4月16日、東京の渋谷アップリンクと角川シネマ新宿で公開される。

 歩いて京橋に移動し、「人生は小説よりも奇なり」(原題「愛は奇なり」)を観た。アイラ・サックス監督の2014年の作品で95分。同性愛者である中年の音楽家と初老の画家が長年の同居生活の末、結婚する。ニューヨークを舞台に、居住という生活の根本が醸す問題を中心に物語が展開する。人間の生き方と物悲しさをさりげなく描いた好作品。東京のシネスイッチ銀座で3月公開される。

 地下鉄で京橋から青山一丁目に行き、神宮外苑にある東北芸術工科大学で、「無音の叫び声」を観た。122分のドキュメンタリー。原村政樹監督の2015年の作品。

 山形県牧野(まぎの)村在住の農民詩人、木村みち夫(80歳、「みち」は、しんにゅうに由)の戦中、戦後、現代を辿り、戦争絶対反対の立場を打ち出す。

 木村の詩集の同人は、かつて無着成恭の「山びこ学校」の生徒であり、木村らの農民文化運動と「山びこ学校」が繋がっていることがわかる。

 上映の前後に木村が挨拶した。私は、木村に最も影響を受けた詩人は誰かと訊いた。同郷の黒田喜夫(1926~84)だと答え、外国人の詩人とは無縁だったと言った。

 4月9日、東京の「ポレポレ東中野」で公開される。詩を好む人には特に見応えがあるだろう。ネルーダのようなメタフォラ(隠喩)を駆使した作風ではなく、物事や心情を直接的に描く。一作の一部を紹介する。

 「コメのなる葉」

 コメのなる葉はかなしい  おおわが田むらの稲(オリザ)よ  コメのなる葉よ  ぬめりぬめる泥の深みから  必死に這いあがり   朝の世界をめざす勇姿よ
 
 原村監督編著の木村みち夫詩集「無音の叫び声」(農文協、2592円)が刊行されている。