2016年2月18日木曜日

ベネズエラが久々にガソリン価格値上げに踏み切る

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は2月17日、ガソリンの値上げを発表した。1989年以来、27ぶりの値上げで、19日から実施される。

 値上げは、ガソリン95オクタン物1リットル=0・097ボリーバル(b)から62倍の6bへ。91オクタン物同=007bから14倍強の1bへ。米ドル換算では、1リットル=0・01dから0・95dへの値上げとなる。

 大統領は、米国では0・78d、隣国コロンビアでは1・08dだと、比較した。だが通貨1d=6・3bの公定交換率での価格であり、闇市場では1d=1000bにも及んでおり、ベネスエラのガソリンが世界一安いことには変わりない。

 1989年初め、時のCAペレス大統領の政権がIMF勧告を受けて経済調整し、ガソリンを含む生活必需物資の価格や公共料金を引き上げたところ2月末、軍隊による鎮圧で死傷者多数が出るカラカス大暴動事件(カラカソ)が発生した。

 1999年登場した故ウーゴ・チャベス大統領はカラカソ体験から、貧困層が多い支持者の離反を怖れ、ガソリン値上げには踏み切れなかった。後継のマドゥーロ政権は2013年7月、ガソリン値上げ方針を打ち出したが、同じ理由で実行しないでいた。

 政府は、ガソリンを超安値の維持するため、年間125億ドルの補助金を支出していた。だが国庫は極度に悪化しており、それが14年後半以降の原油価格低落で破綻に繋がり、今回やむなくガソリン値上げに踏み切った。

 昨年12月の国会議員選挙で政権党連合は大敗、皮肉にもこれにより値上げが可能になった。当面、選挙はなく、失うものがすくないからだ。大統領は、値上げによる収益は社会政策に回すと約束している。

 ベネスエラは国庫収入の95%以上を石油に依存しており、2年半前の1バレル=100dから昨今は20d台に低迷しており、歳出を支え切れなくなっている。大統領は同時に最低賃金および食糧補助を52%3月1日から増やすことも決めたが、インフレが留まるところをしらず、労働者は月収で生活費の6割る程度しか賄えない。

 大統領が今回ガソリン値上げを実施したのは、ベネスエラが熱心に働きかけた結果16日ドーハで開かれたカタール、サウディアラビア、ベネスエラのOPEC3国およびロシアの4カ国石油相会議で、生産を今年1月の水準に据え置くことを決めたタイミングに合わせてのこと。

 ドーハ合意は、イラン、イラク、クウェートなど他の産油諸国の同調を条件としているが、原油重要が減っているのに供給が過剰すぎるのが最大の価格低落要因だとわかっているため、ここに至って合意形成に近づいた。各国とも財政が悪化しており、減産ではなくとも増産しないことで、国際原油市場の好感を招こうと期待している。

 マドゥーロ大統領は、2013年1月のベネスエラの原油輸出収入が33億1700万ドルだったのに対し、今年1月は7700万ドルと激減した事実を示し、ガソリン値上げの必要性を強調した。

 一方、野党連合MUDが圧倒的多数を占めるベネスエラ国会は16日、「恩赦・国民和解法」案の第1回本会議審議を終え、法案を可決した。委員会審議を経て本会議で第2回審議を近く行ない、可決されれば、成立する。だが大統領は拒否権を発動すると明言している。

 政府は、収監されている政治家ら約75人は、2014年前半、死者43人を出した街頭暴動事件の扇動罪や破壊実行罪で有罪になった犯罪者であるとし、恩赦対象にならないとの立場だ。

 これに対し、MUDや右翼メディアは「政治囚」と主張している。政府は、決して「政治囚」ではなく「囚人になっている政治家」と反論している。

 国会でMUDは、マドゥーロ大統領の早期退陣実現のための方策を練っている。憲法が保障する大統領罷免国民投票の実施申請には、有権者の20%(390万人)の署名が必要。MUDは、改憲による罷免の可能性をも探っている。