2016年7月30日土曜日

ベネズエラで狙撃事件発生、要人暗殺未遂か

 ベネスエラで7月28日未明、要人暗殺未遂の可能性のある狙撃事件が起きた。食糧、薬品など生活必需物資を安価で配給する国営「供給・生産地区委員会」(CLAP=クラップ)の全国代表フレディ・ベルナル(政権党PSUV幹部)がカラカス市内の自宅に帰宅、息子マウリシオが家の扉を開けたところ、オートバイに乗った男女2人組が発砲、弾は息子の胸に命中した。

 だが警戒し拳銃を携行していた息子は、撃たれながら応戦、男女2人組を射殺した。ベルナルも捜査当局も、犯人を、政情不安定化を狙った極右勢力のシカリオ(殺し屋)と見ている。男の身元は「ジョン=ホセ・レジェス」と判明した。

 2人組が父と息子のどちらを狙撃する目的だったか不明。だが事件の状況から判断すれば、2人とも射殺の対象と考えても不自然ではない。CLAP代表が暗殺されれば、大混乱に陥るのは必至だった。

 保守・右翼野党連合MUDが圧倒的多数派の国会は28日、昨年12月の国会議員選挙で当選したが最高裁から「不正」を指摘され当選取り消しとなったMUDの3人を議員として承認、出席させた。

 これにより、定数167議席中、MUDは従来の109から112議席となり、3分の2の絶対多数に達した。政権党PSUVは当選した55人のうち1人が最高裁により無効とされ、現議席は54。

 この国会の措置に対し、ニコラース・マドゥーロ大統領の政権および、その影響下にある最高裁がどう出るか、注視されている。

 伯亜ウルグアイ・パラグアイVENの5カ国が加盟する南部共同市場(メルコスール)は30日、モンテビデオで外相会議を開き、輪番制議長国問題を話し合う予定だったが、伯パラグアイ両国が欠席を通告したため、会議は中止された。

 議長はアルファベット順に半年交代制で、過去半年務めたウルグイアからベネスエラに移ることになっていた。ところが伯パラグアイが「VENには政経不安定で民主の問題もある」として反対してきた。

 しかし伯は5月、「制度的クーデター」で、合憲大統領ヂウマ・ルセフを弾劾目的で停職処分にしたばかり。パラグアイは2012年の「国会クーデター」で改革派大統領フェルナンド・ルーゴ(現上院議員)を弾劾した。このような両国だけに、ベネスエラへの批判・非難には説得力がない。

 鍵を握る亜国は、マクリ政権の外相スサーナ・マルコーラが国連事務総長選挙に出馬しているため、集票への影響から「中立」を守っている。この亜国を29日、エンリケ・ペニャ=ニエト墨大統領が訪問、将来の自由貿易協定調印に向け話し合った。

 事態が暗礁に乗り上げたためウルグアイ政府は29日、議長任期終了を加盟各国に通告した。ウルグアイは議長が規定通りベネスエラに移行するのを良しとしているが、伯パラグアイの反対で「ベネスエラへの移管」を明言できない。

 デルシー・ロドリゲスVEN外相は29日、「ベネスエラが議長になれない法的理由は全くない」として、「自動的就任」を主張した。

 メルコスールは欧州連合(EU)との自由貿易協定締結に向け交渉を続けており、また太平洋同盟(AP。チレ、ペルー、コロンビア、メヒコ)とも連携を目指し話し合いを始めたばかり。メルコスールの内部対立は、こうした域外との交渉に影響を与えかねない。

 一方、VEN政権党PSUV、ウルグアイ政権党「拡大戦線」、伯前政権党「労働者党」、パラグアイ元政権党「グアスー戦線」、亜国ペロン派野党「勝利のための戦線」を含む諸党は29日、「メルコスールは右翼勢力の政争に利用されてはならない」として、ベネスエラの議長への即時就任を訴えた。

 米国務省広報官ジョン・カービーは28日、ベネスエラは大統領罷免の是非問う国民投票を早期実施すべきだと発言。これに対しデルシー・ロドリゲス外相は29日、「また米国が他国のことに口出しした」と非難、内政干渉を糾弾した。

 カラカスでは28日、国営石油PDVSAと露石油会社ロスネフト(イゴール・セチン社長)が、VENオリノコ油田への投資など計200億ドルの投資協定に調印した。

 この日は、故ウーゴ・チャベス前大統領の生誕62周年記念日で、マドゥーロ大統領は「故人への最良の贈り物ができた」と調印を讃えた。丘上の砦内にあるチャベス廟では、記念式典が催された。

 28日に報じられたウィキリークスの米外交文書暴露情報によると、ヒラリー・クリントン前国務長官(現・民主党大統領候補)は長官だった2010年、部下のアルトゥーロ・バレンスエラ米州担当国務次官補に、「チェベスに手綱をかけるにはどうすべきか」と意見を求めるなど、反VEN工作を企てていた。

 時期的には、ヒラリーが加担した2009年のオンドゥーラス大統領マヌエル・セラーヤ打倒のクーデターを国連総会が非難決議した後の時期だった。チャベスは、このクーデターを激しく非難していた。

 バレンスエラは、「公然とチャベスに立ち向かうのは注意深くあらねばらなず、関係諸国の協力を求めるのがよい」と答えた。ヒラリーはまた、「米国益に反する諸国」として、イラン、VEN、中露を挙げ、同諸国への放送予算を増やすよう、米関係当局に求めた。

 さらに、米議会ロビー活動機関などを運営するマドゥレーヌ・オルブライト元米国務長官は2010年、スペインのマリアーノ・ラホーイ右翼政権に対し、VENを含むラ米諸国に対する政策で協力を働き掛けた。ヒラリーの意向を汲んでいたか否かは不明。

 このような事実や情報により、ラ米ではヒラリーへの信頼感は高くない。ただしトランプよりはましと見られている。