2017年1月12日木曜日

トランプの「壁」発言に「費用払わぬ」とメキシコが強く反発

 ドナルド・トランプ次期米大統領は1月11日NYで記者会見し、ラ米では唯一メヒコに触れて、国境(3200km)に壁を出来るだけ早く築き、その資金をメヒコに負担させると強調した。

 メヒコ人と政府は戸惑いと怒りを顕わにしているが、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は同日メヒコ市で開催中の在外公館長会議の場で、「次期米政権とは立場の違いがある。<壁>建設費はもちろん支払わない」と反駁した。

 1時間近い会見でトランプが記者団との質疑に応じたのは約35分だった。トランプはロシアに次いで中国、日本とともにメヒコに言及した。米自動車会社にメヒコへの工場進出を翻意させたこと、および、大統領選挙勝利への一里塚となった「国境の壁」建設をぶったのだ。メヒコ政府と交渉するが「1年、1年半と待たず、早期に建設したい」と言明した。

 EPN大統領は今月4日、トランプ経営陣に人脈を持ち、トランプ個人からも知られている前財務相ルイス・ビデガライ(48)を外相に任命、トランプ次期政権との関係構築を手掛けようとしていた。だが今回の壁建設確認発言でまたも冷水を浴びせられた。

  トランプは「メヒコは従来、米国を利用、そこから生まれる利益を享受してきたが、今後はそうはいかない」とも述べた。メヒコにとって「壁建設」が意味するのは、対米移民・貿易、米投資導入への障害であり、米加両国と1994年から維持してきた北米自由貿易条約(TLCAN、英語ではNAFTA=北米自由貿易協定)の健全な運営が阻害されることだ。

 EPNはさらに、「米政府は不正資金と密輸武器のメヒコへの流入を阻止するとの約束を守らねばならない」と、いつになく厳しく米政府を批判した。メヒコ上院外交委員会のガブリエーラ・クエバス委員長(PAN所属)も、「壁建設費は一銭たりとも払わない。このことをメヒコ人民に誓う」と述べた。

 これまでにもトランプと遣り合ってきたビセンテ・フォドックス元大統領は、「彼は独裁者だ。利己主義ゆえに記念碑(壁)を建てたいなら、自分で金を払え」と言い返した。

 米加州と国境を接するメヒコの北低加州のエルネスト・ルフォ元知事は、「壁は実現しないだろうが、トランプの孤立主義外交に対しては、ビデガライ流(の人脈外交)でなく、的確な外交政策を基に合理的に対応せねばならない」と注文をつけた。

 メヒコはトランプから蔑まれ、誇りを傷つけられてきた。メヒコはかつてグアテマラからパナマまでの中米と、キューバを中心とするカリブ諸国に外交的影響力を持っていた。だがTLCAN/NAFTA依存が高まり、米国にばかり顔を向けるようになって、中米・カリブへの影響力を大きく失った。南米での存在は全く薄くなってしまった。

 EPNは今、「ラ米への回帰」をまじめに口にするようになっている。また欧州連合(EU)、中国、日本などへの経済的接近強化を目指すようになっている。

 メヒコに1980年代初めまであったような「反米思想」はないが、トランプが、埃を被っていた民族主義をメヒコ人に思い出させたのは確かだ。

 来年7月には大統領選挙が実施されるが、過去2回の選挙で苦杯をなめた改革派のAMロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)=国家刷新運動(MORENA=モレーナ)党首=は、トランプ政権下で米墨関係が悪化すれば、有利になる可能性がある。

 メヒコ人と政府は20日のトランプ就任を固唾をのんで注視している。

▼ブログ子のトランプ会見感想:  これほど格調低い政治指導者の記者会見は初めてだ。弁護士まで登場させ、経営切り離し問題を長々と語らさせたのは時間稼ぎ以外の何物でもない。なぜ記者団は文句を言わなかったのか。知性がほとんど感じられない超三流芝居を見ているような気分になった。これが世界一影響力を持つ強大国の最高指導者に数日内に収まる人物だから悲劇的だ。ジャーナリズムやマスメディアに敵対するのは全くいただけない。権力者は批判されるのが商売、当たり前のことなのだ。これがわかっていない。非難されると、すぐに怒って「倍返しで」攻撃するのでは政治家失格だ。情けない。地球の先行きは暗い。