2017年5月26日金曜日

  イシカワ駐日ベネズエラ大使が日本記者クラブで、同国情勢に関する国際的な虚偽報道を厳しく批判。ニカラグア、キューバ、ボリビアの3大使もベネスエラとラ米の立場を説く▼制憲議会(ANC)選挙出馬は月末登録へ。トランプ米政権はベネズエラとキューバへの18年度援助をゼロに

 セイコー・イシカワ(石川成幸、日系3世)駐日ベネスエラ大使は5月25日午後、日比谷公園に面した東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、ベネスエラ情勢に関する虚偽ニュースや意図的誤報が横行、極度に誤った反ベネスエラ世論が国際社会で形成されていると、実例を幾つも挙げて批判した。

 米政治週刊誌ニューズウィーク日本語版は、最新号で「ベネズエラほぼ内戦状態、政府保管庫には大量の武器」という見出しで、翻訳記事を掲げた。イシカワ大使は、英語版の見出しにも本文にもないことを日本語版は見出しにしたと指摘した。

 時事通信はカラカス発AFPの翻訳記事に「ベネズエラ、第2のシリアになる恐れ  米国大使が警鐘」という見出しを付けた。大使は、ベネスエラの状況はシリアと全く異なると述べ、米大使の意図を批判した。因みにVEN・米双方は2010年から相互に大使を置いておらず、この記事の大使は「臨時代理大使」と思われる。

 イシカワ大使はまた、典型的な虚偽ニュースとして、保守・右翼野党連合MUD幹部が発信した「治安部隊に包囲され窮地に陥っている若い女性」という印象を与えた写真は、実は治安部隊の前で笑ってポーズをとっていた同じ女性の「演出場面」を撮影した虚偽写真だと、証拠を示して暴露した。

 さらに、コロンビア国境「タチラ州での人間の鎖」と題した写真がスペイン・カタルーニャ州での「人間の鎖」の写真を偽って流したものだと指摘。ウクライナの写真をベネスエラと偽って流した例、チレとエジプトの警察による弾圧写真をベネスエラでの弾圧として流した例、貧者が治安部隊と対峙しているブラジルの写真をベネスエラと偽って流した例など典型的な虚偽発信を次々に紹介。虚偽記事・写真がいかに誤った判断と世論に人々を導くか、ということを指摘した。

 大使はその上で、世界最大の原油埋蔵量を持つベネスエラが石油の富を貧困解決など社会政策に回し国を変革したことに反感を抱く勢力が虚偽情報配信の背後に居る、と示唆した。

 米国は国際金融界に圧力をかけベネスエラへの融資を禁止、ベネスエラの食糧や薬品の輸入が困難になった。ベネスエラの財界も米国に呼応して減産、在庫隠しをしてきた。この種の「経済戦争」でベネスエラ社会は揺さぶられてきた。

 大使は、そんなからくりを説明。その打開策の一例として、6人家族が半月暮らせる食糧品37種をダンボール箱やビニール袋に詰め、平均賃金の10%程度の価格で配給する「クラップ」政策を紹介した。

 さらに、ベネスエラの人間開発指数0・767がLAC(ラ米・カリブ)平均0・751を上回っていることや、貧富格差を示すジニ係数が2015年には0・38だったと強調。ベネスエラは、「資本主義の独裁」に対する「人間的な代替経済モデル」を遂行し成果を挙げてきたが、それゆえに敵視されている、と指摘した。大使は、日本の最重要同盟国である米国への批判を極力避けるべく配慮していた。

 マドゥーロ・ベネスエラ政権は今、制憲議会(ANC)の7月下旬実施に向けて動いているが、イシカワ大使は5月の世論調査で回答者の54%がANC開設に賛成していることが明らかになったと指摘。またMUD指揮の反政府行動が否定的結果を招くと批判する者が81%に上ったことを強調した。

 会見の場の最前列には、クーバのカルロス・ペレイラ大使、ニカラグアのサウール・アラナ大使、ボリビアのアンヘラ・アイリョーン臨時代理大使が並んで着席していた。アラナ大使は、「世界で最も平和な地域は重大な紛争がないLACだ」と指摘。そこに紛争を持ち込む米国を暗に批判した。

 ペレイラ大使は、「日本の一部メディアも虚偽報道に陥ってはいまいか」と指摘。「米政府は左翼政権、進歩主義政権に反対し攻撃を仕掛ける」とし、「政権打倒の戦略は不変だが戦術を替えた」と分析した。アイリョーン代理大使も民族自決を譲らないエボ・モラレス政権の立場を説いた。

 期せずして記者会見の場は「大なる祖国」の熱気に満たされた。

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は5月25日、7月下旬実施のANC議員選挙に出馬する者は31日~6月1日にCNEに登録すべきことを発表。出馬には選挙民の3%の署名が必要とした。

 議員数は545人で、うち364人は全国の市を基盤にした「地域選挙区」から選出。残る181人は「職能別選挙区」から選ばれる。それは労働者79人、年金生活者28人、学生24人、コムーナ(コミューン)24人、先住民8人、農民・漁民8人、身体障害者5人、財界5人。ANC開設に向け提示される改憲草案を審議する「職能別委員会」が一部地域で25日発足した。

 ニコラース・マドゥーロ大統領はMUD指導部に、暴力打ち切り、ANC選挙参加、安寧・生活・民主のための対話をあらためて呼び掛けた。大統領はまた、「商店1000軒以上が略奪、破壊されたが、正常な状態に戻した」とも述べた。

 ブラディミール・パドゥリーノ国防相とネストル・レベロール内相は25日、反政府勢力の暴動のさなかに死んだ大学生(20歳)の死因について政府と異なる見解を示すなど政府中枢と対立しているルイサ・オルテガ検事総長を厳しく批判した。

 デルシー・ロドリゲス外相は、米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長とOEA加盟諸国がベネスエラ政府を激しく非難しながら、ブラジル政府による人民弾圧に沈黙しているのを「背徳的」と糾弾した。ブラジルのミシェル・テメル大統領は贈収賄関与が決定的な形で暴露され、辞任を求める大規模な抗議行動に遭っている。24日には首都ブラジリアに軍隊を治安出動させた。

 ベネスエラ外務省は国連児童基金(ユニセフ)に、「反政府勢力は少年少女・未青年に火炎瓶を作らせ投げさせている」と、証拠の写真、映像、証言を添えて告発した。

 一方、トランプ米政権は24日、2018年度予算案でLAC援助を大幅に削減。16年度に650万ドルあったベネスエラ向けはゼロとなった。同じくクーバ向けも2000万ドルからゼロにされた。一方で米議会は、ベネスエラ反政府勢力支援資金として新たに2000万ドルを支出する法案を審議している。