2017年5月24日水曜日

 ベネズエラ反政府勢力は「無政府状態」醸成狙い暴力攻勢。治安部隊施設、選管、政権党支部も襲撃さる。故チャベス大統領縁の家も放火・炎上、略奪。4月初めからの死者は60人に近づく

 ゴルペ(クーデター)教本には、「軍事介入を正当化するための騒擾(無政府)状態を醸成する」という恐るべき段階が盛り込まれている。ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派変革政権の打倒を目指すべネスエラの反政府勢力は今、形振り構わず、騒擾状態=無政府状態をつくろうと、全国各地で殺傷、破壊、当局襲撃、放火、略奪などを激発させている。

 暴徒は5月22日、西南部ジャーノ(大平原)地方にあるバリーナス州都バリーナス市にある故ウーゴ・チャベス前大統領の「聖地」に放火、略奪した。少年ウーゴが兄アダン(現・教育相)とともに州内農村部の貧しい実家を離れて住んだ祖母の家だ。チャベス派にとっては史跡であり聖地である。そこがついに狙われ破壊された。

 反政府勢力を操っている保守・右翼野党連合MUDは、焦っている。MUDを戦略・資金両面で支援している米国の、頼みのD・トランプ大統領が弾劾される可能性のある不安定な状態に陥ったのと、国際社会でMUDの暴力肯定路線に批判の声が徐々に上がってきているからだ。極右暴力路線では、政権の受け皿には到底成りえない。

 チャベスが育った祖母の家の放火・略奪を、反政府派暴徒の仕業だとメディアに証言したのは、バリーナス市が選挙区のMUD派国会議員ペドロ・カスティージョだった。

 タレク・エルアイサミ執権副大統領は22日カラカスで記者会見し、MUDは同日、全国的な「武装ストライキ」を実行しようと計画していたと暴露した。また4月初めから続いている一連の反政府行動の中のテロリズム、破壊活動の責任はMUD指導部にあると指摘した。

 副大統領は、ボリーバル州営バス53台が放火され炎上、破壊された事件を挙げて、「これが平和な抗議デモと言えるか?」と問いかけ、実行犯2人を逮捕したと明らかにし、その本名を公表した。

 またMUD所属の極右政党VP幹部ホルヘ・マチャードを、破壊活動組織と暴徒への資金供与で逮捕、併せて現金の札束を2万束押収したと発表した。

 エルアイサミは、バリーナス市では(チャベスの祖母の家の他)、ボリバリアーナ国家警備隊(GNB)の地区司令部に暴徒が侵入、略奪し破壊、警察署3カ所と政権党PSUV支部も放火された、と明らかにした。

 さらに同市では複数の商店が略奪され、政府大衆医療政策の薬品・医療機材保管庫が破壊、略奪され、病院が襲撃された。政府の大衆向け住宅政策と同教育政策の支部事務所も攻撃された。バリーナス市では一連の暴動で5人が死亡した。

 ララ州都バルキシメトでは主要道路がバリケードで封鎖され、商店主たちは閉店を強制された。MUD系の地元警察は見て見ぬふりをしていた、という。

 国家選挙理事会(CNE=中央選管)は別途、バリーナス州でCNE支部が22日破壊され略奪された、と発表した。またタチラ州の数市の役所が襲われ、選挙人登録名簿が奪われ、破壊された。

 エルネスト・ビジェーガス情報相は、22日には全国で26人が逮捕されたと明らかにした。情報相によると、MUDは4月初めから各地で計1600回の街頭行動を展開、うち600回は暴力を伴っていた。死者は60人に達しつつある。

 MUDの破壊活動を指揮しているのは、ミランダ州知事エンリケ・カプリーレスらと目されている。カプリーレスは2002年4月のチャベス打倒の軍事ゴルペ未遂事件時、カラカスのクーバ大使館に侵入、逮捕されたが、数か月後に免罪された。2013年4月の大統領選挙では僅差でマドゥーロ現大統領に敗れたが、敗北を認めず街頭暴動事件を起こした。

 このような人物を02年に釈放したチャベスを、「温情主義の失敗」と批判する知識人もいる。14年2月の街頭暴動事件時、暴動教唆罪で逮捕され服役中のMUD極右VP党首レオポルド・ロペスも02年事件でつかまっていたが、釈放されていた。

 23日も政府支持派と反政府側はそれぞれ街頭行動を予定している。政府側は制憲議会(ANC)開設準備を急いでおり、大動員をかけてANC開設世論を盛り上げたいところ。反政府側は、ゴルペ誘発を狙い、さらなる非合法活動で「失敗国家」を印象付ける戦略を続けようとしている。